取り組んだ内容
【取組(1)】 Ⅰ.働き方・休み方改善 |
2 勤務負担軽減 |
その他の情報通信機器を活用した業務効率化・省力化を推進している |
【取組(2)】 Ⅰ.働き方・休み方改善 |
2 勤務負担軽減 |
チーム医療や多職種連携(業務分担・連携の強化等)により負担軽減を図っている |
取り組みのきっかけ、背景、取り組み前の問題点
当院では2014年1月から、50歳以上の骨折で入院した患者に脊椎のX線検査、骨密度検査、血液検査を行い、骨粗鬆症と診断された患者に対しては入院中に薬物治療を行う取り組み(二次骨折予防)を開始した。しかし、いずれの患者が骨折のため入院した患者(二次骨折予防の対象)であるか、対象患者はどの病棟に入院しているのかを把握することは容易ではなかった。対象患者が把握できなければ、検査・治療を漏れなく、滞りなく行うことは不可能である。そこで、入院日、骨折部位、受傷日、受傷原因、主治医、検査の実施、治療薬などのデータベース「骨折調査リスト」を作成し、医師が入力した。2016年7月に骨粗鬆症リエゾンサービス(Osteoporosis Liaison Service:OLS)チームを立ち上げ、2017年からはチームの医療クラークがこの表に必要事項を入力している。この「骨折調査リスト」を各職種が確認すれば骨折で入院した患者の情報共有が可能となると考えた。しかし、この表に詳細な患者情報を記入してゆくと、患者数が蓄積されることで表の行と列が増え、表を開いても瞬時に目的の情報を得ることができず、活用には至らなかった。看護師は各病棟で患者を把握、検査・治療の進捗を確認するため、新たに入院患者のリストを作成したり、カルテの背表紙にテープを貼り他の患者と区別し、テープに検査、治療の進捗状況を記入するなど工夫をしたが、OLSのメンバーがすべて手作業で行うため、勤務体制により更新されないことや対象患者、検査・治療の把握漏れが頻発した。患者情報の確認に時間と労力を要するばかりで効率が悪く、常に医師と医療クラークで確認補助を行わなければならなかった。また、各病棟がそれぞれの方法で対象患者の把握を行うことが可能となっても、形式が異なり、情報を確認する場所も限定されたため、結果的に情報共有には至らなかった。
二次骨折予防の対象患者の情報共有がスムーズに行われれば、情報の漏れは少なく、時間の有効活用が可能となりメンバーの負担も軽減できると考え、二次骨折予防の情報共有システムを構築することとした。
取り組み対象
- 取り組み対象
医師,コメディカル,看護職
- 取り組みの中心部署・人物
整形外科医の働きかけで各部署から多職種20名程度のOLSチームが結成し、共通システムの開発・運用が進められた。
- 取り組み詳細
【ITシステム開発】
医師が構想を考え、開発を担った事務職員が具現化する形で作られた。この事務職員がシステム開発専門であったわけではなく、自習しながらオリジナルの仕組みを作り上げた。具体的には、院内のパソコンに情報を一元的に管理し誰もが閲覧でき、共有する情報を絞り(画面のスクロール不要)、容易にアクセス(2クリック)でき、入力が不要なもの(自動更新)である。この「検査・治療進捗表(NASU system)」の項目は在棟開始日、病室、患者ID、患者氏名、主治医、骨折部位、血液検査・骨密度の結果、処方薬・注射薬名であり、検査、処方には日付も同時に表記される。このシステムは「骨折調査リスト」の対象患者名を抽出し、骨密度検査(DXA)データ、血液検査データをファイルから読み込み、電子カルテデータベースから患者データの取得を行い表計算ソフトMicrosoft Excelに自動表記し、1日に2回自動更新される。さらに、対象患者は入院病棟ごとのシートに、入院後1週間は項目が色つきで表示され、転棟や退院により該当病棟の表からも自動に削除される(データは蓄積しない)。前述のように各病棟、整形外科外来のパソコンのデスクトップに「検査・治療進捗表」があり、①表を開く、②病棟タブを選択するといった2クリックで、検査・治療の情報が把握可能である。
開発プロセスでは医師と担当事務職が密にコミュニケーションをとり、草案作りに2週間、システムの初版の完成に約1ヶ月、そこから最終的に動作の不具合を医師が細かく確認し担当事務職は速やかに修正する過程が約2週間で仕様が定まり運用開始となる。
【二次骨折予防のための情報整備】
病棟ごとに対象患者とその検査・治療の情報管理方法が異なる点、必要情報を調べて入力するOLSチームのメンバーに負担が偏る点が課題であった。当初は医師がそれを全部確認しようとしたが、それは他の業務に支障が出る点で非効率であった。そこで、システム開発と各現場業務での適切運用とを同時に考えることとなった。まず、看護師と話し合い、整形外科医が選定した必要な検査項目の確認と現場での使い勝手を検証した。システムの活用としては、単にチェックリストとならないように、検査結果と薬剤情報の関連性などをOLSチームの看護師が理解できるよう意識するため解説を行った。
【体制:主治医との関連、OLSチーム、医療クラーク】
骨折をした患者がその原因である骨粗鬆症の治療(薬物、運動、栄養)を行うことは、脳梗塞後に降圧剤や抗血栓薬などの服用、食事療法を継続し再発を予防することと全く同様であり、本来入院中に行うべき取り組みである。すなわち入院した病棟、広く言えば病院全体で取り組む必要があると考え、病院や各部門に依頼して20名ほどの多職種からなるOLSチームを2016年7月に立ち上げた。その際にOLS活動の事務と整形外科医の補助業務の両方を担う立場として医療クラークを1名採用してもらった。2017年からはいずれの病棟でも閲覧可能な「検査・治療進捗表」の元情報である「骨折調査リスト」への入力は医療クラークに任せている。整形外科医は複数いるが、骨折で入院した患者はこのシステムに反映された時点で辻医師やOLSチームがすべて把握可能であり、医師が患者の骨粗鬆症に対する検査や治療に関して確認したい場合は、主治医であるかに関わらず、必要な情報が確認できる。
【活用例】
現場では、「検査・治療進捗表」に情報が集約され、看護師の業務円滑化につながった。また従来は、患者情報を医師のもとに都度届けていたため、看護師・医師とも確認時間を要していた。しかしこのシステムに情報が統合されているため、例えば病棟回診時にその病棟の患者情報が医師にまとめて報告されるようになり、相互の時間短縮と抜け漏れ防止につながった。また2020年9月からはOLSチームのメンバーからの発案で、メンバーによる治療の意義と治療継続の必要性を患者個々に説明するOLSラウンドが実施されているが、このシステムの活用でラウンド対象候補患者を短時間に選定可能である。
実施後の成果
Ⅰ.働き方・休み方改善_成果 | ||
2 勤務負担軽減 成果 | ||
本来の医療業務に時間を集中させやすくなった | ||
成果の出た対象 | ☑医師,☐コメディカル,☐看護職,☐事務職 | |
成果に影響を与えた取り組み | 【取組(1)】 【取組(2)】 | |
成果指標 | ・医師1人あたりの患者診察時間数の向上 ・骨折患者の骨粗鬆症チェック・治療度合い向上 |
Ⅰ.働き方・休み方改善_成果 | ||
2 勤務負担軽減 成果 | ||
関係者への情報伝達時間の短縮、抜け漏れの排除 | ||
成果の出た対象 | ☐医師,☐コメディカル,☑看護職,☐事務職 | |
成果に影響を与えた取り組み | 【取組(1)】 【取組(2)】 | |
成果指標 | ・医師への患者情報伝達時間の削減、病棟チームとしての生産性向上 |
Ⅳ.働きがいの向上_成果 | ||
OLSチームの能動的な活動姿勢 | ||
成果の出た対象 | ☑医師,☐コメディカル,☑看護職,☐事務職 | |
成果に影響を与えた取り組み | 【取組(1)】 【取組(2)】 | |
成果指標 | ・患者情報を容易に把握できるようになり、本来業務に集中できる時間を確保できたことで、患者のことをより確認するようになる等、医師、看護師等複数職種において、診療・ケアに対するモチベーションが向上した |
これまでの取り組み成果に対する院内の声・反応
【システム開発面】
機能やデザインへの細かい要望や、情報連動の不具合などは都度意見が出され、改善が
重ねられてきた。システム開発においては医療者側(使う側)とシステム作成側(作る側)の作成の目的や情報の共有を踏まえた歩み寄りが事前に必要であることを実感した。この経験を踏まえ、次に二次骨折予防の退院支援カンファレンスシートを作成した際には、担当事務職員も最初から会議に参加してもらった。目的共有を図ることでさらに迅速に作成できたという経験も得られている。
【OLSチームの動き】
OLSチームのメンバーからチーム全体の取組みとして上記ラウンドが発案され、2020年9月から実施している。患者が治療や治療継続の意義を理解しなければ治療は中断となり骨折は予防できない。このことをメンバーが理解し、自主的に活動を展開できた意義は大きく、次にメンバー自身の価値を理解するはずである。OLSチームで入院中の患者や家族とコミュニケーションをとり、しっかりと治療の動機付けを彼らの活躍で病棟・病院全体で二次骨折予防への取組みの素地ができつつある。
【職場への周知と理解】
OLSメンバーが、これまで以上に職場の理解が得られ活動しやすくするため、当院OLSの活動の意義や取組みについて、診療部会議で医師や部門長に報告する。
今後の課題等について
医療分野では人と人とのつながりが欠かせない場面が数多く存在する。システムを構築し情報共有を行い、効率化を追求することは医療の質を向上させる一側面である。それ以上にスタッフ1人1人が自身の仕事の意義や価値を理解し、信頼関係を構築し前向きに業務に取り組める環境づくりが重要と考える。システムを作成してもその意図を理解し利用するのは人だからである。
取り組み・提案者概要
- 取組者
- 病院単体での取組
- 法人名
- 医療法人 朝日野会
- 病院名
- 朝日野総合病院
- 法人(病院)の開設主体
- 医療法人
- 所在地
- 熊本県熊本市北区室園町12番10号
- 主たる医療機能の特徴
- 急性期機能
- 一般病床
- 病床数: 278
- 入院基本料:10対1
- 療養病床
- 病床数: 103
- 入院基本料:療養病棟入院基本料1
- 結核病床
- 病床数:
- 入院基本料:
- 精神病床
- 病床数:
- 入院基本料:
- その他病床
- 病床名:
- 病床数:
- 入院基本料:
- 一日あたりの平均外来患者数
- 250人(令和1年度数値)
- 一日あたりの平均在院患者数
- 344.4人(令和1年度数値)
- 一般病棟の平均在院日数
- 17.3日(令和1年度数値)
- 病床稼働率
- 91.1%(令和1年度数値)
- 職員総数
- 652人(令和2年度数値)
- 医師
- 53人
- 看護職
- 186人
- 医師事務作業補助者
- 8人
- 看護補助者
- 64人
- 医師の交代制勤務の有無
- なし
- 看護師の交代勤務の状況
- 3交代制(変則含),2交代制(変則含)
- 勤務環境改善についての表彰・認定等について